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情報商材ビジネスはどこから違法になるのか|摘発事例に共通する3つの落とし穴と、適法に続けるための9つのチェックポイント

結論:摘発されているのは「広告が派手だったから」ではありません!
オンライン教材、ビジネススクール、副業サポートプラン、投資ノウハウのコンサルティング——いわゆる「情報商材」を扱う事業者の方から、当事務所には次のようなご相談が寄せられます。
「広告の表現はどこまで許されるのか」「うちのビジネスは違法なのか」
まず結論から申し上げます。近年、警察に検挙され、消費者庁に実名公表されている事業者は、「広告が派手だったから」処分されているのではありません。 処分理由をひとつずつ確認していくと、共通しているのは次の3点です。
- 顧客を対面または電話で勧誘し、取引類型が「通信販売」から変わったこと
- その類型で必要な法定書面を交付していなかった、または記載が足りなかったこと
- 解約を申し出た顧客に「クーリング・オフはできない」と伝えたこと
つまり、摘発の実際の構成要件は「広告の誇大性」ではなく、契約時の書面と、解約時の対応です。ここを理解していないと、「広告の表現だけ弁護士にチェックしてもらったから大丈夫」という誤った安心につながります。実際に処分された事業者の多くが、まさにその状態でした。
私自身、弁護士になる前にIT企業を経営していました。成約率を上げるために対面の場を作りたい、という経営判断の圧力は実感としてよくわかります。ただ、対面化と強い営業トークを同時に進めた瞬間に法的リスクが跳ね上がるのが、この分野の構造です。本記事では、公表されている検挙・行政処分事例をもとに、「何がアウトだったのか」と「では適法にどう設計するのか」を経営者目線で整理します。
1. 情報商材への責任追及は「3つのルート」で来ます
自社のリスクを把握するには、まず責任追及の経路を分けて考える必要があります。
| ルート | 使われる法律 | 執行の実情 |
| 刑事 | 詐欺罪/特定商取引法違反/金融商品取引法違反(無登録営業) | 詐欺罪へのシフトが顕著。数十人規模の一斉検挙が常態化 |
| 行政 | 消費者安全法38条1項(実名公表)/特定商取引法(業務停止命令等) | 消費者安全法の実名公表が中核。 |
| 民事 | 消費者契約法4条1項2号(断定的判断の提供)/民法709条の不法行為 | 最高裁令和6年3月12日判決により集団的被害回復の道が開いた |
現実のリスクは次の3つです。
- 消費者安全法38条1項に基づく注意喚起(実名公表)——事業者名・代表者名・所在地・具体的な勧誘文言まで消費者庁のウェブサイトに掲載されます。行政処分ではないため不服申立ての枠組みが使いにくく、しかも事実上の営業停止に等しい打撃になります。
- 特定商取引法に基づく業務停止命令+役職員個人への業務禁止命令——法人を畳んでも、代表者・使用人個人が名指しで公表されます。
- 無登録営業としての警告書発出と名称公表——金融庁・財務局の警告書発出件数は2021年20件、2023年36件、2024年56件、2025年79件と急増しています。
2. 最大の分岐点は「通信販売のままかどうか」
特定商取引法の検挙件数を取引類型別に見ると、この分野の実態が一目でわかります。
| 取引類型 | 検挙件数(令和6年) |
| 訪問販売 | 92件 |
| 通信販売 | 1件(被害額0円) |
| 電話勧誘販売 | 2件 |
| 連鎖販売取引 | 2件 |
| 業務提供誘引販売取引 | 1件 |
令和7年はさらに極端で、通信販売0件に対し訪問販売114件(全体の85.7%)です。情報商材の典型類型である通信販売の刑事検挙は、年間0〜1件にとどまっています。
理由はシンプルです。ウェブサイトで完結する通信販売には、クーリング・オフ制度も法定書面の交付義務もありません(誇大広告の禁止=特商法12条などは適用されます)。問題は、そこから一歩踏み出した瞬間に規制が適用されるという点です。
2-1. カフェ・貸会議室に呼んだ瞬間に「訪問販売」になります
特商法の「訪問販売」は、自宅を訪ねる行為だけを指すものではありません。営業所等以外の場所で契約を締結すれば訪問販売です。 カフェ、レンタルスペース、貸会議室、ファミリーレストラン、勧誘者の自宅——いずれも該当します。
さらに、自社の事務所に呼んだ場合でも安全ではありません。SNSのDMで「お金の勉強に興味ない?」と声をかけ、商品販売が目的であることを告げずに事務所へ誘引して契約させた場合、いわゆるアポイントメントセールスとして訪問販売の規制対象になります(特商法2条1項2号)。
訪問販売に該当すると、勧誘に先立つ氏名等の明示(3条)、再勧誘の禁止(3条の2)、法定記載事項を満たした申込書面・契約書面の交付(4条・5条)、不実告知・故意の事実不告知の禁止(6条)、そして8日間のクーリング・オフ(9条1項)が一気に発生します。
検挙されている事業者は、この「発生した義務」に対応していませんでした。 対面営業に切り替えたのに書面は通販時代のまま、あるいは書面はあるが「契約の解除に関する事項」の記載が抜けていた——これが実際の検挙理由です。
2-2. 電話をかけたら「電話勧誘販売」です
安価な入口商材(数千円〜2万円のマニュアル)を買った顧客に電話をかけ、高額プランを案内する——定番の流れですが、これは電話勧誘販売(特商法2条3項)に該当し、書面交付義務(18条・19条)とクーリング・オフ(24条)が発生します。
2-3. 「業務提供誘引販売取引」という第3の類型
「この教材を買えば、当社が紹介する業務で収入が得られます」という建て方をすると、業務提供誘引販売取引(特商法51条)に該当します。通信販売であっても、次の義務が発生します。
- 概要書面の交付(55条1項)——契約締結前に交付が必要です
- 契約書面の交付(55条2項)
- 20日間のクーリング・オフ(58条1項)
実務上決定的なのは、法定書面が交付されていない、または記載が省令の要求水準に達していない場合、20日間の起算点が進行しないという点です。報酬単価・利益の計算方法・支払条件といった業務提供条件の記載が不十分なケースが極めて多く、契約から半年後、1年後でもクーリング・オフを主張されうる状態が続きます。返金請求を受ける側にとって最大の弱点です。
なお、この類型には連鎖販売取引や特定継続的役務提供と違って法定の中途解約権がありません。ここは事業者側に有利な点として押さえておいてよいでしょう。
3. 摘発・処分された事業者が実際にやっていたこと
3-1.「事業者間契約だからクーリング・オフできない」──アフィリエイトコンサル事件
令和6年11月までに大阪府警が検挙した事案です。会社役員の男(25歳)ら11人と2法人が、特定商取引法違反(不実の告知等)で検挙されました。被害は45都道府県の約500人、約12億円。
流れはこうです。①SNSに宣伝動画を出す → ②顧客をカフェに誘い出す(この時点で訪問販売化) → ③契約の解除に関する事項が記載されていない書面を交付 → ④解約を申し出た顧客に「事業者同士の契約になるのでクーリング・オフはできない」と告げる。広告では「月1万円でノウハウを教える」としながら、実際の契約金額は約165万円〜330万円でした。支払のために消費者金融からの借入れや高級腕時計のローン購入・換金を指示し、勧誘マニュアルも押収されています。
「B to B契約だからクーリング・オフの適用外」という整理は、複数の検挙事例で不実告知と認定されています。 顧客が個人事業主であっても実質的に事業実態がなければ消費者として扱われる可能性があり、安易に「事業者間契約」で処理するのは非常に危険です。
3-2.「儲けが出なければ返金保証」と借入指示──実名公表事例
2025年6月26日、消費者庁が消費者安全法に基づき実名公表した事案です。アフィリエイト副業のサポートプランで、最上位プランは60日間250万円。「初心者でも簡単に稼ぐことができる」「このプランなら月50万が当たり前になる」「儲けが出なければ返金保証」とうたっていました。
実際に提供されたのはASPへの登録指示とLINEサポートのみ。さらに遠隔操作アプリ「AnyDesk」をダウンロードさせ、消費者金融各社に50万円程度ずつ借入申請させていました。
公表文で決定的な事実として挙げられたのが、「契約金額を上回る報酬を得た消費者が1人も確認されていない」という点です。消費者庁は、成果を出した受講者が実在するかどうかを実質的に調べています。「稼げる」表示の適法性は、表現の言い回しではなく実際の成果分布で判断されると考えるべきです。
3-3. 借入れの勧奨だけで処分されます
令和7年12月24日、関東経済産業局がSNS運用・AI活用スクール(55万円、手数料込み支払総額約77万円)の事業者に対して指示を出しました。この事案で重要なのは、適合性原則違反(顧客の財産状況に照らして不適当な勧誘=借入れの勧奨)が単独の処分理由になっていることです。
「クレジットカードの枠が足りなければ消費者金融で借りて分割で払えばいい」という一言が、それだけで処分事由になります。誇大広告も不実告知もなくても、です。
3-4. 20代・学生を対象にすると必ず加重されます
令和5年7月に業務停止命令等を受けたFX自動売買ツール(約53万円)の事案では、「AIが取引してくれるからリスクは限りなく少ないよ」「すぐに元が取れるから借金しても何の問題もないよ」という勧誘に加え、学生に「学生だと収入が低いから社員だと言って」と虚偽申告を指示していました。
消費者庁は「大学生等の若者を対象として、知識・経験・財産に照らし不適当な勧誘等を行ったモノなしマルチ商法」と評価しています。東京都が令和5年3月6日に処分した事案では、契約者の平均年齢が約21.5歳でした。若年層への集中は、処分・検挙のほぼすべてで加重要素として指摘されています。
3-5.「AIツールの販売」という建付けは通用しません
投資関連の商材を扱う事業者が最も誤解しているのがここです。
2024年11月、警視庁はFX取引サイトの運営者らを金融商品取引法違反(無登録営業)で逮捕しました。プロトレーダーの取引を顧客口座に自動複製する「ミラートレード」システムを提供していた事案で、コピートレード/ミラートレードの提供そのものを投資助言業務と認定した全国初の刑事立件とされています(約1,500人・約16億円規模)。
また令和8年4月24日には、AI株ソフト等を提供する4社が一斉に警告を受けています。いずれも「投資顧問契約に基づき、SNS等を通じて投資助言業務を行っていたもの」と認定されました。「ソフトウェアを売っているだけ」「ツールの使用許諾です」という建付けは、実質判断で貫かれます。 なお、この4社のうち2社は代表者が同一人物です。法人を使い分けても、代表者で串刺しにされます。
3-6. 勧誘に出演した個人も被告になります
情報商材被害で唯一の最高裁判決(令和6年3月12日・第三小法廷)が出た事案では、消費者団体が事業者と勧誘動画に出演した個人(インフルエンサー)を被告として提訴しました。差戻審は、勧誘者個人について「消費者の契約締結の意思形成に直接影響を与える程度に購入を働きかけている」として被告適格を認め、商品内容について「著しく事実に相違する表示をし、その性能を社会通念上許容される範囲を超えて著しく誇張して行われたのであるから不法行為法上違法である」と判示しました。「購入者の中に利益を得た者がいるとしても不法行為の成否は左右されない」とも付言しています。
外部のインフルエンサーに広告出演を依頼する場合、その方個人も訴訟リスクを負います。 依頼する立場であれば、表現の根拠資料を必ず共有してください。なお本件は2026年7月現在、被告らの上告により最高裁に係属中で、共通義務は確定していません。
4. 適法に続けるための9つのチェックポイント
以上を踏まえ、情報商材・オンライン教材を販売する事業者が点検すべき項目を整理します。
① 取引類型を正しく認識し、対面・電話勧誘を行うならその類型で設計する
「通信販売だから書面もクーリング・オフも不要」という整理は、カフェ・貸会議室・事務所での勧誘を行った瞬間に崩れます。対面・電話を行うなら、申込書面・契約書面(業務提供誘引販売なら概要書面も)を法定記載事項どおり完備してください。
② クーリング・オフを正面から認める運用にする
「事業者間契約だからクーリング・オフ適用外」という説明は、複数の検挙事例で不実告知と認定されています。解約対応マニュアルから該当文言を削除してください。
③「稼げる」表示は根拠データを保持し、成果分布を併記する
受講者の成果の平均値・中位値・成果が出なかった方の割合を保持し、開示できる状態にしてください。「必ず」「確実に」「絶対に」は使わない。これは表現の問題ではなくデータの問題です。
④ 借入れの勧奨を全面禁止にする
支払能力確認の社内規程を整備し、勧誘者が年収・職業を代筆したり虚偽記載させたりしないことを徹底してください。遠隔操作アプリでの借入画面共有は、公表文で繰り返し名指しされています。
⑤ 実際の提供内容を契約前の書面で具体的に開示する
処分事例のすべては「勧誘時の説明と実際に提供されたものの乖離」で処分されています。作業の実態、必要工数、外部プラットフォームへの登録が必要な旨などを事前に明記してください。
⑥ 返金条項は「平均的損害の額」を積算して設計する(詳細は次章)
⑦ 投資助言・運用に踏み込まない設計にする
個別銘柄・売買タイミングの助言、顧客口座の管理、成功報酬の受領を行わない設計が必要です。成約連動報酬の受領は「媒介」認定の決定的なメルクマールであり、紹介サイト・比較サイトも媒介と認定されています。
⑧ 20歳代・学生を対象にしない
ターゲティング設定、広告クリエイティブ、勧誘マニュアルの3点を点検してください。
⑨ 法人を使い分けても代表者で串刺しにされる
複数法人での運営はリスク分散になりません。役職員個人も名指しで公表・処分されます。
5.「いかなる場合も返金不可」条項は無効になる可能性が高いです
利用規約に「お申込み後はいかなる理由でも返金いたしません」と書いている事業者は、いまだに少なくありません。しかし、この種の条項は消費者契約法9条1項1号(平均的損害を超える違約金の無効)および10条により無効となる可能性が高く、適格消費者団体の差止対象です。
- スクール事案(東京高裁2023年4月18日判決/2024年3月15日上告不受理で確定)——入学時諸費用38万円の不返還条項について、7万円を超える不返還が差止められました。控訴審は「受講する地位」という抽象的な対価性を否定しています。「コミュニティ参加権の対価だから返金不要」という抗弁は封じられていると考えてください。
- 「仕事を紹介する」型の契約事案(東京地裁令和7年2月26日判決・請求全面認容/2025年3月14日確定)——「クーリングオフは出来かねます」との特約、積立金放棄みなし条項、保証金54万円の返還不可条項がいずれも差止められました。
- 裁判外でも、「正式申込み後は、いかなる場合も、中途解約・返金・支払義務解消はございません」という条項が、適格消費者団体の申入れにより全体削除された例があります(2023年5月)。
実務対応は、解約時に自社に生じる平均的損害の額を積算し、その範囲内で返金規定を設けることです。 教材の制作原価、個別対応にかかった人件費、決済手数料など、根拠を持って算定した金額であれば適法性を主張できます。「一律返金不可」は、無効リスクと差止リスクの両方を抱えることになります。
6. 返金請求を受けたとき、相手方が使ってくる3つの構成
顧客から返金請求や訴訟を受けた場合、相手方の弁護士が使う構成はほぼ次の3つに集約されます。
- 消費者契約法4条1項2号(断定的判断の提供)——最も成功率が高い構成です。「リスクを負わずに誰でも働かずに億万長者になれる」とうたう商材について、「実現が不確実な事項に関して断定的な判断を提供するもの」と認定し、契約代金全額(847,292円)の返還を認めた簡裁判決があります(平成31年2月20日)。
- 民法709条の不法行為——特商法12条の誇大広告禁止違反を違法性判断に取り込む型で、通信販売型の標準的な構成です。「著しく事実に相違する表示」であり「不法行為法上違法と評価すべき」と判示した東京地裁判決(令和元年7月3日)があります。
- 法定書面不交付によるクーリング・オフ——書面の不備は起算点を進行させません。ビジネスコーチング役務契約と紹介料契約の合計110万円について、「2つの契約を全体としてみれば連鎖販売取引に該当する」と認定し、クーリング・オフを認めた簡裁判決(令和4年3月18日)があります。
一方、民法96条(詐欺取消)、95条(錯誤取消)、90条(公序良俗違反)を正面から認めた情報商材の公表裁判例は見当たりません。 つまり事業者側の防御の焦点は、断定的判断に当たる表現の有無と書面の完備の2点に絞られます。
なお決済手段も無関係ではありません。翌月一括払い(マンスリークリア)は割賦販売法の適用外で支払停止の抗弁は使えませんが、分割・リボ払い・ボーナス2回払い・個別クレジットの場合は適用の余地があります(政令上の下限は4万円)。
7. まとめ|今すぐ点検すべき優先順位
情報商材ビジネスの法的リスクは、「広告表現」だけを直しても消えません。優先順位は、①自社の取引類型を確定する → ②その類型で必要な法定書面を法定記載事項どおりに整備する → ③解約対応マニュアルから「クーリング・オフできません」を削除する → ④返金規定を「平均的損害」ベースに作り直す、の順です。
そして、これは一度整備すれば終わりというものではありません。勧誘の入口はネット広告(2021〜2022年)から店頭での声かけ(2024年)、求人サイト(2025年)、マッチングアプリ(2026年)へと急速に変化しており、そのたびに取引類型の評価が変わります。


