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健康アプリは医療行為になる?ヘルステックが注意すべき法律のグレーゾーン

インターネットで化粧品、健康食品、美容商品を販売するには薬機法(薬事法)に気をつける!
目次

健康アプリ開発者が陥りがちな誤解

ヘルスケア分野のスタートアップでは、「これは医療じゃなくてあくまで健康サポートだから法律は関係ないはず」といった誤解に陥りがちです。例えば次のような認識は要注意です。「医者じゃない人がアドバイスするだけなら医療行為じゃない」 – 開発者自身が医師でなければ問題ないと考えるケースです。

「健康増進が目的の一般向けアプリだから規制対象外だ」 – 一般ユーザー向けの健康情報提供サービスなら法律の縛りはないと信じてしまうケースです。

「免責文を書いておけば大丈夫」 – 「本サービスは医療行為ではありません」と断り書きを入れれば安心だと思い込むケースです。

実はこれらは大きな落とし穴です。医療行為に当たるかどうかは、提供する行為の内容で判断されます。たとえ提供者が医師免許を持たない人物であっても、サービス内容が実質的に医師しか行えない行為であれば法律違反となり得ます。
また、利用者向けに「医療ではない」と説明していても、実態が個別の健康状態に踏み込んだアドバイスであれば免責にはなりません。単に健康情報を発信するだけのつもりでも、その内容次第では医師法や薬機法に抵触する可能性があることを認識しておく必要があります。

医療行為とみなされるケース(医師法、医薬品医療機器等法)

それでは具体的に、どんな場合に健康アプリの提供が「医療行為」とみなされるのでしょうか。ポイントとなるのは、日本の医師法第17条と医薬品医療機器等法(薬機法)の2つです。

医師法第17条:無資格の医業禁止

医師法第17条では「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と定められています。この「医業」(いわゆる医療行為)とは何かについて、厚生労働省の解釈では次のように定義されています。

医業とは、医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を反復継続の意思をもって行うこと

平たく言えば、「医師の判断・スキルがないと人に危害を及ぼすおそれのある行為」を反復的に行えば、それは医師しか行ってはいけない医療行為だということです。典型例として個別の症状に対する診断、治療法の決定、投薬の指示などはすべて医療行為に該当します。

たとえばアプリ上で利用者の症状に応じて「○○の疑いがあります」「この薬を飲めば治ります」といった個別判断や具体的な助言を提供すれば、それはたとえAIやプログラムが提示したものであっても医療行為と見なされるリスクがあります。 医師以外の者がこのような医療行為を行った場合、医師法違反(無資格医業)となり、最悪の場合刑事罰(医師法第31条に基づく罰金や懲役)が科される可能性もあります。

したがって、健康アプリであっても「特定個人の健康状態に対する医学的な判断・アドバイス」は医師にしか許されないことに注意が必要です。

薬機法:ソフトウェアも「医療機器」になり得る

もう一つ重要なのが薬機法(医薬品医療機器等法)です。薬機法では、人の疾病の診断・治療・予防に使用されることを目的とした機器等を「医療機器」と定義し、販売には国の承認や認証が必要です。

2014年の法改正でソフトウェア単体も医療機器に該当し得ることが明確化されました。つまり、スマートフォンアプリであっても病気の診断や治療を目的としている場合には医療機器と見なされる可能性があります。 例えば、利用者のデータを解析して病気のリスクを判定したり、治療効果を高める機能を持つアプリは、そのままでは無許可の医療機器を提供していることになりかねません。

医療機器に該当する場合、事業者は国への製造販売認可の取得や品質管理体制の構築、広告の表現制など、厳しい規制を遵守しなければなりません。

サービスごとの法律的チェックポイント

ヘルステック領域でスタートアップが提供しがちな代表的サービスについて、法律面で注意すべきポイントをまとめます(当事務所へのお問い合わせ件数が多い順に紹介します)。

ダイエット管理アプリの場合

食事記録やコーチング機能で減量をサポートするダイエット系アプリは人気ですが、提供するアドバイスの内容によっては「アウト」になるリスクがあります。

カロリー計算や運動の推奨など、万人向けの健康増進策の提示に留まる分には問題ありません。例えば「野菜を多めに摂りましょう」「1日30分歩きましょう」といった一般論はOKです。しかし、利用者個人の体調や疾患に踏み込んで「○○という病気にはこの食事法が効果的です」といった助言をする場合、法律違反になる恐れがあります。

持病や症状に対する指導になっていないか?

利用者の中には、高血圧や糖尿病など持病を抱えた方も少なくありません。そのような方に対し、病状改善を目的とした食事指導をアプリ上で提供すると、医学的判断を伴う栄養指導と見なされてしまいます。

実際、厚労省と経産省のガイドラインでは「傷病を有する者への医学的判断・技術を伴う運動/栄養指導サービスは医師または医師の指示の下でしか行えない」と明記されています。医師の関与なしに持病のあるユーザーへ食事法や運動法を個別に指導すれば医師法違反となるリスクが高いので注意が必要です。

過度な効能・効果の宣伝をしていないか?

「絶対に痩せる」「○○が治る」といった断定的な表現で宣伝すると、薬機法や景品表示法の観点から問題となる可能性があります。特に肥満を治療するといったニュアンスは、肥満症の治療行為を想起させるためNGです。ダイエットはあくまで健康増進目的であり、疾病の治療をうたわないようにしましょう。

以上から、ダイエットアプリでは一般的な健康アドバイスに留め、疾病の治療や診断に踏み込まないことが肝要です。必要に応じて「持病のある方は医師に相談してください」など注意書きを添えることも有効ですが、根本的にはサービス設計自体を医療行為の域に入れないようにすることが重要です。

バイタル測定・記録アプリの場合

近年はスマートフォンやスマートウォッチを用いて、心拍数や血圧、睡眠状態などを測定・記録するアプリも増えています。こうしたバイタルデータ系アプリについてのチェックポイントは次の通りです。

データの「解釈」や「診断」をしていないか?

単にユーザー自身の測定データを記録・グラフ表示するだけなら問題ありません。しかし、アプリがそのデータから医学的な評価や判断を下す場合は注意が必要です。例えば「心拍数のパターンから不整脈の可能性があります」「この数値なら発作のリスクがあります」とアプリが告知するような機能は、実質的に診断行為につながります。これはソフトウェアが医療機器に該当する典型例であり、無承認で提供すれば薬機法違反となり得ます。

医療機器プログラムに当たらないか?

前述のように、病気の診断・予防・治療を目的とするプログラムは医療機器となります。実際、Apple Watchの心電図測定アプリは国内で医療機器(家庭用心電計プログラム)として承認を取得するまで、日本版では機能が封印されていた経緯があります。

このように高度な解析や警告機能を備えた場合には、自社開発のアプリであっても事前に承認を得るか、該当機能をオフにして提供する必要があります。

ユーザーへの指示・助言内容は適切か?

バイタルデータに基づいて「薬を服用してください」「受診が必要です」と具体的な行動を指示する機能も危険域です。受診勧奨そのものは必ずしも違法ではありませんが、症状や数値から個別の医療判断を伴う指示を出すと医師法に抵触しかねません。一般論として「基準値から大きく外れる場合は医療機関を受診しましょう」程度の汎用的な助言にとどめておくことが無難です。

まとめると、バイタル系アプリではデータの提示まではOKだが、その解釈結果をユーザーに医療的に示すのはNGという線引きを意識しましょう。高度な解析を提供したい場合は医療機器としての承認取得を検討することをおすすめします。

オンライン診療補助ツールの場合

コロナ禍以降、オンライン診療(遠隔診療)を支援するアプリや、チャットで健康相談ができるサービスも増えています。遠隔医療系サービスに関して確認すべきポイントは以下の通りです。

医師によるオンライン診療か、それ以外の健康相談か?

医師が患者を診療するオンライン診療は、一定の条件下で認められています。ただし、初診は原則対面など厚労省のオンライン診療指針に沿った運用が必要です。例えば初診からオンラインだけで完結させないこと、ビデオ通話など適切な手段を用いること等が求められます。
厚労省はチャット(文字情報)のみで診療行為を行うケースなどは「医師法違反のおそれがある」として各都道府県に指導を促す通知も出しています。

したがって、診療補助ツールを作る場合は指針に従った設計(医師が適切に使える機能提供)を心がけ、指針に反する使われ方は想定しないようにしましょう。

医師以外のスタッフが対応する健康相談か?

医師ではなく看護師や管理栄養士、あるいはAIチャットボットがユーザーの相談に応じるサービスも見られます。この場合、提供できるのはあくまで一般的な情報提供や受診勧奨に限定されます。

厚労省は「医師以外による遠隔健康医療相談」に関し、相談者個人の状態に踏み込んだ疾病の可能性提示や診断等は行ってはならないと明確に示しています

例えば症状を入力したユーザーに対し、AIが「○○の疑いがあります」と返答するような機能はアウトです。また看護師等が対応するチャット相談でも、「それくらいなら病院に行かなくて大丈夫」など受診不要の判断を下すことも不可とされています。

医師以外が関わるサービスでは、回答内容が一般論の範囲を超えないよう徹底する必要があります。

サービス提供者(事業者)の立ち位置に注意

オンライン診療マッチングアプリの場合、自社はあくまでプラットフォーム提供者に徹し、医療行為自体は医師と患者の間で完結させることが重要です。万一にも事業者自らが医療の一部を提供していると解釈されると、無許可の医療機関開設や医師法違反の問題が浮上します。
医師との契約関係や利用規約の書き方も含め、事業者が医療行為をしていないことを明確化しておきましょう。

以上、オンライン診療・健康相談系では、「誰が」「どの範囲まで」アドバイスするかが法的に大きな鍵となります。医師が介在しない部分では極力一般的な情報提供に留めるよう設計し、必要に応じて適宜医師にバトンタッチする仕組みを取り入れることが求められます。

インターネットで化粧品、健康食品、美容商品を販売するには薬機法(薬事法)に気をつける!

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