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他社の社員に常駐してもらう場合に気を付けるべき法律とは【偽装請負・準委任】【2024年3月加筆】

システム開発のための法律

他社の社員が、自社に常駐している場合

システム運用・保守をA社に委託しており,A社の社員の甲さんが、自社に常駐して開発・保守を行っている。

そんなケース、システム開発・保守の現場では、よく行われています。そして、甲さんには、自社の担当者が指示を出していたり、残業や休日出勤も依頼するなんてことも、しばしば…。

このような状態は、法律的にどうなんでしょうか。
今回は、最新事例を踏まえて、解説していきます【2019年11月22日加筆】

偽装請負と判断される場合も

本来であれば、A社の従業員が、B社に常駐し、B社社員の指示のもと、業務を行うことは、A社とB社との間で、労働者派遣契約を締結する必要があります。

また、A社は、法令に基づき、一般労働者派遣事業の許可を得る必要があります。

しかし、一般労働者派遣事業の許可は、ハードルがあることから、実際は、「業務委託契約」「SES契約」等を締結して、上記の業務を行っていることが多いです。

このようには,「準委任契約」という契約形態でありながら,実態は労働者派遣になってしまっている状態のことを「偽装請負」と言われることがあります。

偽装請負は,労働者保護の観点から問題が大きいとされ、法令上,禁止されています。

どんな場合に「偽装請負」と判断される?

偽装請負の判断基準としては、厚生労働省がガイドラインを出しています。

旧労働省告示(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示37号)。以下「37号告示」といいます。)

厚生労働省のガイドライン(労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド)

上記ガイドラインでは、下記すべてを満たす場合にのみ、適法な業務委託契約になるとされています。(反対に、一つでも、満たしていなければ、偽装請負で違法)

一.労働者への指揮命令を業務委託先事業主が行う

(1)業務遂行上の指揮命令

  1. 業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと
  2. 業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと

(2)勤怠管理上の指揮命令

  1. 労働時間(始業及び終業時刻,休憩時間,休日,休暇等)に関する指示その他の管理を自ら行うこと
  2. 残業,休日出勤等に関する指示その他の管理を自ら行うこと

(3)職場管理上の指揮命令

  1. 服務上の規律に関する指示その他の管理を自ら行うこと
  2. 勤務配置等の決定及び変更を自ら行うこと

二.発注者から独立して業務処理を行う

(1)業務に関する資金等の自己調達,自己支弁

(2)事業主としての法的責任負担

(3)受託業務は次のいずれかに該当し,単なる肉体的労働力の提供でない

  1. 自己調達の機器,設備等を使用して業務を処理すること
  2. 自らの企画,専門的技術,経験に基づいて業務を処理すること

「委託先の担当者が、常駐している者に指示をする」「残業や休日出勤を依頼する」こういう場合には、偽装請負だと評価される可能性が高いでしょう。

偽装請負と判断された場合の効果

偽装請負だと判断されてしまうと,以下のような処分が課されてしまいます。

  • 指導,改善命令,業務停止等の行政処分

また、刑事罰の適用対象にもなります(一年以下の懲役又は百万円以下の罰金or六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金)。

労働契約申込みみなし制度

また、派遣先会社は,偽装請負の状態になっていることを知りながら労働者を受け入れた場合は,違法状態が発生した時点で派遣先会社が当該労働者に対して、派遣元会社における労働条件と同一の労働条件を内容とする雇用契約をオファーしたとみなす制度(労働契約申込みみなし制度)が規定されています。

つまり、派遣先会社は、常駐している労働者に対して、「今勤務している会社と同じ条件で、うちに来ない」とオファーしているとみなしますという制度です。

これは、当該労働者が、派遣先会社で働きたいと言えば、派遣先会社は、雇用を拒否することができないのです。

偽装請負と判断されないために

偽装請負だと判断されないためには、厚労省のガイドラインに従って,以下のような措置が必要になります。

  • 契約書上の規定を整備する
  • 指示命令系統を見直す
  • 労務管理は、派遣元が行う