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曲名「ヒカシュー」騒動、実際のバンド名を「曲名」に使うことは法律的に問題があるのか?

実在するバンド名を「曲名」に使用でタイトルを変更

音楽ユニットである「水曜日のカンパネラ」は、2013年に発表した楽曲「ヒカシュー」の曲名を「名無しの権兵衛」に変更したと公式サイトで発表しました。これは、実在するバンド「ヒカシュー」から要請があったため、両者の混同を避けるための決断であるとしています。

公式サイト:楽曲「ヒカシュー」の曲名が「名無しの権兵衛」に変更になります。

「水曜日のカンパネラ」側は、「ヒカシュー」の由来について、ゲームのキャラクターに出てくる「ヒカシュー大将軍」にまつわるものであって、バンド名ではないとしています。

しかし、「同じ名称のため誤認混同を避けるため、双方の立場を考えたで決断致しました。」としています。

このように、実在をするバンド名を楽曲に使用する場合に、法律的に問題があるのでしょうか?

著作権法上の問題となるか?

問題になるしたら、まず考えられるのは、著作権です。

「ヒカシュー」という言葉が、「著作物」に当たるのかという言葉が問題になります。

「著作物」とは、以下のように定義されています。

「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」

つまり、オリジナリティが表現物は、著作物です。しかし、あまりにも短いフレーズや単語は、例えオリジナリティがあったとしても、「著作物」には当たらないとされています。

「ヒカシュー」は、5文字の短いフレーズです。このような短い言葉は、「著作物」には該当せず、著作権法の適用はありません。

商標法上の問題となるのか?

次に商標権ですが、商標権を主張するには、特許庁で商標登録する必要があります。

現在、「ヒカシュー」というバンド名は商標登録されていませんので、商標権は主張できません。仮に商標登録されていたとしても、商標登録には「区分」というものがあり、商標を独占できる範囲は、「区分」の範囲内のみです。

例えば、「ヒカシュー」を「バンド名」として商標登録していたら、「ヒカシュー」を楽曲名として使用しても、商標権侵害にならないのです。

不正競争防止法の問題となるのか?

また、「不正競争防止法」違反も問題になり得ます。すでにある商品・サービスと誤認させるような商品・サービスを出してはいけません。

「ヒカシュー」というのを「バンド名」で使用すると、「演奏してるのが『ヒカシュー』だ」、あるいは「『ヒカシュー』と関係のあるアーティストである」といった誤認を生じるので、「不正競争防止法」違反になる可能性があります。

しかし、楽曲名として使用しているだけではそのような誤認は生じず、不正競争防止法違反にはなりません。

法的に問題はなくても、ビジネス上の配慮は必要

以上のように、今回の場合は、法的に問題はなさそうです。

しかし、楽曲名に使われた「ヒカシュー」側からすれば、いい気持がしないのも事実。実際、「水曜日のカンパネラ」の上記公式サイトでは、「バンド「ヒカシュー」からの要請」があったことを認めています。

法的には問題にならなくても、ビジネスをやる上では、道義上の責任、マナーといったことにも配慮する必要があります。

弁護士としても、「法的には~」と法律論を振りかざすだけでなく、そのような配慮にも言及できないようにしなければならないと強く感じた出来事でした。